白い世界

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「ねぇ、何話してるの?」  突然入ってきた三人目の声に驚き笑いが止まる。振り返ると五歳くらいの女の子が俺たちを見上げていた。 「お嬢ちゃん、パパかママは?」  しゃがんで目線を合わせる、フリルのついたスカートとパーカー、二本の三つ編みがお洒落だ。こんな小さな子を一人にしておくわけがない、きっと両親も側にいるはずだ。 「お嬢ちゃんじゃないよ、季蘭(きらん)だよ」  少し怒ったように俺は怒鳴られた。 「ごめん、ごめん、季蘭ちゃん、パパかママはどこかな?」 「......いない」  彼女の目に涙が溜まって行くのがわかる、この歳くらいの子はこうなると後数も秒すれば大音量の声を上げて爆発するように泣き喚くだろう、耳を突き抜けるような泣き声、俺はそれが嫌いだった。 「わー、わかった、わかったから泣かないでくれ」  あたふたしている俺の前から季蘭ちゃんが引き上げられる。佐伯さんが抱き上げたとだとわかった。 「そーう? じゃあお姉さんと一緒に探しに行こうか?」 「うん!」  再び足をつけた小さな女の子は佐伯さんと手を繋いだ、なんだこの大人力(おとなりょく)は、たった今まで泣く寸前だった子が、今や笑いはしゃいでいる。 「誠吾君、早くしないと置いて行くわよ!」 「そうだよ、お兄ちゃん」  前には手を繋ぐ二人―― 「んだよ」  笑いながら歩き出す、季蘭ちゃんは父母との思い出を話してくれた、父親は毎日遅くまで仕事をしているが、休みの日は一緒に遊んでくれる、母親の料理は美味しく、とくに生クリームが乗ったパンケーキを一緒に作った事が面白かったと、目を輝かせながら話した。  俺もがむしゃらに残業していた事を思い出した、休みの日は体が疲れて動けない日もあった。それでも俺は建築士の仕事が好きだった。デートの約束も守れない、何より仕事優先だった。  そんな俺でも深鈴は好きと言ってくれた、週末には俺の家に来て、洗濯掃除、料理まで、デートもせずに身の回りの事をしてくれた。俺は早く一人前になって、深鈴と季蘭ちゃんのいる家庭のような、暖かい家庭が築きたかった。  ――俺は、深鈴と結婚......したかったのか?
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