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「それでね、それで季蘭ね」
まだ話が続きそうだ、親と離れている状態で、どこにそんな元気があるのか、片方ずつ彼女の手を取って歩く、景色は未だ変わらぬままだ。
「話に混ぜてくれてもよろしいか?」
気配を感じなかったが、その声は確実に彼女達とは逆の方向から聞こえた。反射的に声のあった方を向くと、白髪の老人が隣で一緒に歩いていた。
「うわっ、いつかいらしたのですか?」
「ほんの先程です、気がつけばあなた達の声が聞こえていまして」
こんな場所、一人でいるのは心細いだろう。俺たちにしても人は多い方が心強い。
「驚かすつもりはなかったのですが、すみません」
「いえいえ、一人では心細いですよね」
「まぁ、この歳まで生きると、どんな境遇にも慣れますけどね」
ワハハと笑う利蔵と名乗る老人は、歩きながら若い頃から今にあたるまでの人生ということを語った。
俺は父親のことを思い出していた。毎晩母親が泣いていたことも知っていた。
仕事を転々としていた為、収入は少なかった。それでも傍若無人に振る舞う父親を、子供心にも好きにはなれなかった。
何故母親は離婚しないのか、そのことにも腹が立った。
高校を卒業すると、息の詰まりそうな実家を逃げるように飛び出して、大学へ通った。
――こんな親みたいになりたくない、自分はこんな家庭にだけはしたくない、それだけは心に決めていた。
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