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さっきも、この店に向かう道すがら、私たちを『かなさなコンビ』と呼んだ。本気で寒気がした。奏に変な誤解されると困るので全力で否定した。よくそんなことを平気で口にできるなと、ある意味感心した。私たちは中学生じゃない。そんなごっこ遊びな事を言われるとはっきり言って白ける。いい加減やめてほしい。こりごりだ。
香菜は隣の席という立場を利用して、奏にちょっかいをかけている。小学校の頃、二人は同じクラスだったらしいが、だから何だと言いたい。文化祭の時もちゃっかり彼女とペアを組んで一緒にいた。奏に近づこうとしているがバレバレだった。同じ色のエプロンをつけていた所に汚い本性が垣間見えた。思い出しただけでムカムカする。からっとした秋晴れのお休みが、どんよりとした曇り空になりそうだ。
平成三十年六月二日、午前八時四十二分。生まれて初めて奏を見た。私は堕ちた。奏という一人の女の子の存在に、私は堕ちた。透き通った白い肌、特徴的な八重歯、天使の絹糸のような真っ直ぐな髪。奏の持つ全てが私を射抜いた。一目惚れ?いや違う、そんな安っぽい言葉で片づけられるものじゃない。目をつぶって彼女の声を聞いただけでも好きになっていたはず。もっとだ。目と耳を塞いでいたとしても、奏が通り過ぎた後の残り香だけでも恋に堕ちていたはず。奏という存在が、私に『人を好きなる』という事を教えてくれた。私は今まで愛を知らない人間だった。
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