香菜

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 月に一度、土曜のお昼にお気に入りのハンバーガーショップで同じメニューを食べる。それは高校に入った頃から、二年間ずっと育んできた私と佐奈だけの幸せの時間。いつもは二人で二階のカウンターの席に座る。すぐそばの交差点を見下ろせる特等席。そこで街行く人々の頭を見下ろしながら、色んなおしゃべりをする。学校のこと、携帯のアプリのこと、ファッションのこと。そして二人で一つの雑誌を読む。その時、お互いの肩が触れ合うと私たちは一つになれる。このお店のオレンジ色の照明に、少し()げたテーブルの端に、私と佐奈の思い出が刻まれている。  私は小学校の頃から何をやっても平均だった。スポーツも勉強も芸術も。  みんなそれぞれ持っているものと持っていないものがある。算数はすごく得意だけど国語はからっきしな子。絵は下手だけど水泳はやたらと速い子。そういうものが無い私は、誰かを測る為に使われる『物差し』のような存在であって、測られる側ではなかった。『平均』は何もないと同じ意味だと気づいたのは、小学校六年生ぐらいだった。  みんなが持っている光る個性を、際立たせるために用意された比較用の存在。そう思って、自分に対して無気力になりかけていた私を変えてくれたのが佐奈だった。  私は中学に入って最初の半年間は部活に入らなかった。でもクラスメイトの佐奈の輝きを肌で感じて、自分も追いかけるようにバスケ部に入った。生まれて初めて『憧れ』というものができた。いつか彼女のように周囲を照らすことのできる光になりたい。佐奈と肩を並べられるように努力してきた。彼女のシュートのフォームを真似した。同じ髪型にした。試合でほんの少し良いプレイができるたび、私は佐奈に近づけた気がした。     
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