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 いつ離れ離れになるか分からないと、当然部活にも入りにくくなる。私は部活というものを経験したことがない。それがまた教室で話せる話題の少なさに拍車をかけた。共通の話題を持てないという事は、集団に入っていく上でかなりの足枷(あしかせ)になる。いまのクラスに入る前は不安だけが私の心を埋め尽くしていた。私は教室という三十九人の他人を詰め込んだ箱に一人ぼっちで飛び込むはずだった。 「小学校の頃一緒だった奏ちゃんだよね?将来の夢は確か…コックさんとか…」  香菜ちゃんは私に気付いてくれた。小学校の頃、一年ほどしか一緒にいなかったのに。家に帰り、部屋の隅に置いていた将来捨てる予定の段ボールを開いた。寄せ書きを引っ張り出し、彼女が書いてくれた部分読んだ。教室で話した内容がそのまま書かれていた。誰かが私の事を覚えていてくれる。それだけで全てが救われた気がした。幽霊のような私を香菜ちゃんが見つけてくれた。自分の居場所が初めて出来た。彼女の中が私の居場所。  文化祭で香菜ちゃんとペアを組み、肩を並べて一緒にホットケーキを作った。お揃いのエプロン姿で肩を並べられるだけでも嬉しかった。私にとって学校行事は、慣れない内輪ネタを外から眺めるだけの苦痛の場でしかなかった。それを初めてちゃんと楽しいと思えた。お祭りのラスト、小さい打ち上げ花火が作る暖かい光に照らされた香菜ちゃんの横顔を見た。心の中で何度も何度も、その横顔を胸に抱きしめた。  誰にも渡したくない。香菜ちゃんが居なくなってしまったら、私はまたリセットされてしまう…。
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