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雪の奇跡
枯れ果てた大地で、彼は空を見上げていた。その瞳はどこか虚ろで、遠い。
何を見ているんだ、と問うと、彼は泣きそうに笑って、雪だよ、と答えた。
空は、雲一つなく青々と続いていた。
☆
「ねえ、チハヤ。雪ってなぁに?」
キリトが、絵本を指差して聞いてきた。くるりとした目とぷっくりとした唇の、可愛らしい顔立ちをしている彼は、女子と見間違えてしまいそうになるが歴[レッキ]とした男である。
もう十五にもなるというのに幼さが抜けない彼は、いつまでも絵本を読んでいる。それは、幼稚園の頃から変わっていないが、彼の個性だと思っているので、たいして気にしたことはない。
チハヤは、彼の指差した雪の結晶を見た。六花[リッカ]と呼ばれるそれは、名前のとおり花のようで可愛らしいが、その実、恐ろしいものだ。それは、周知の事実である。
この世界に、冬はない。いや、正確に言えば、無くなってしまった。
かつて争いばかりを起こしていた人間が、核と呼ばれる悪魔の兵器を使ったり、日常的に悪いガスなどを輩出していたりしたせいで、この世界が少しずつ壊れ始めてしまった。そしてついには、この世界から、季節が消えてしまったらしい。
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