「独白」

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 私は死を待っている。死を待ち望んですらいるのだ。  私は生かされている。私の意思とは無関係な生にしがみついて日々を過ごしている。寝たきりのこの体で、日々を過ごしているという表現はふさわしくないかもしれない。  私は自分の身の回りの世話の一切を自分で行うことができない。他人の助けなしに生きることができないのだ。赤ん坊と同等の存在だ、いや、このままただ老いて死んでゆく私など、赤ん坊以下で存在価値なんてとうの昔に失っているはずだ。  私は言葉を発することができない。すなわち、自分の意思を伝達することができない。いくら死にたいと頭の中で願っていても、それを伝える手段がないのだから、私は無意味に生かされ続けているだけだ。    そう、私は3年前から『植物人間』の状態になってしまった。不運な交通事故が原因だった。  その日、妻と娘夫婦は温泉旅行に出かけており、温泉が苦手な私は一人で愛車のアウディを飛ばして東名高速道路をドライブしていた。70ー80年代のロックンロールを聴きながら一人でドライブするのが、老後の唯一の楽しみであった。  しかし、あの日が人生で最後のドライブになろうとはその時は微塵たりとも思いもしなかった。  事故発生後、近くの大学病院に運ばれた私は、半日近くに及ぶ大手術を受けたそうだ。温泉旅行中だった家族が病院に到着したのは、私の手術が終了した直後のことだった。  手術後、私は1週間ほど目を覚まさなかった。家族は半ば諦めかけていたことだろう。年齢を考えれば、亡くなっていておかしくないほどの大事故だったという。  だが、今思えばのことだが、不幸にも私は意識を取り戻してしまった。  それからが地獄の日々だった。
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