「独白」

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 私は魚になったような気分で緑に着色された海を泳いでいた。自由を手にした開放感に満ち溢れた魚は視界の端に映り込む微かな光を頼りに先へ先へとぐんぐん進んでゆく。  後ろから何か得体の知れない存在の生命を感じた。私という魚はその未知の生命体に捕食されるのではないかという、本能的な生存欲求に裏打ちされた危機感に苛まれ、速力を上げる。ヒレをそれまで以上の頻度で動かし必死の思いで、エメラルドグリーンとは言えないまでも中々の透明度と輝きを放つ暖かな海を全速力で駆け泳ぐ。  しばらくすると、未知の生命体の存在を感知しなくなり、魚は安堵した。そして、まばゆいばかりの光に、太陽なのかどうか判別はつかないが、同等の明るさを持った光源から放射された光が、魚の姿をした私を照らし出した。あまりの眩しさに目を閉じ、顔の両側に備え付けられた視覚器がその眩しさに順応するのを果てしなく待ち続けた。  どれほど時間が経ったのだろうか。目を閉じている間、魚という私の側を幾多もの生き物が通り過ぎたのを感じた。次第に眩しさに慣れてきたのか、段々とその眩しさは手加減し始めた。そして、私は瞼を開いた。  光の先のその奥には、また次なる光が差し込んでいた。  そして、私は意識を取り戻した。風を肌で感じることができた。  開け放たれた病室の窓から吹き抜ける風が、私の前髪を撫で付けた。  私の周りに家族の姿はなかった。
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