参 恋する乙女は買い物をする

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参 恋する乙女は買い物をする

「一品で百六十三円になります」  日葵は、これから受験の合格発表でもあるのか? と問いただしたくなるほど緊張した面持ちでレジに出陣した。  日葵がコンビニに行って買い物をせず帰ると言う矛盾した行動をとっていた理由は簡単だ。  天使様に買い物の処理をお願いするなんて恐れ多いこと恥ずかしすぎてできないからである。  軽快にレジを打つ天使様を遠目に眺めている分には至福の時だが、いざその目の前に自分がたつとなればそれはもう心臓が早鐘を打つどころの話ではない。    連写のシャッター音並みのスピードで鼓動を打てば間違いなく寿命が縮むだろう。    かといってもう片方のレジで待機しているちょっと偉そうな人は普通に怖すぎる。  まるでヤクザのような眼付きの鋭さで無理やり営業スマイルを浮かべる様子は傍目から見る分には滑稽で笑えるが、いざその前に自分がたつとなれば恐ろしすぎる。  これも間違いなく寿命が縮むだろう。  前回買い物に来たときは休日で、優しそうなお姉さんがレジに立っていたからこそ買い物ができたのだ。しかしお姉さんの平日のシフトと日葵の来店時間は合わないようだ。  そんな事情から店内を徘徊する謎の中学生は誕生した訳だが、不審がられたからには買い物をしない訳にも行かなかった。
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