第一章 山

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どんよりと曇った土曜日、僕はふと自転車を漕ぐ足を止めた。というより、自転車が止まったとでも言うべきだろうか。ここ最近、自分の身体は何者かに操られている。僕は何故学校へ向かっていたのだろう、そうか今日はテストだったな。テストという事実に気づいたものの、既に足は山と戦っていた。しばらく無言で歩く。ふいに吹く風が冷たい。風で揺れる葉の音が妙にざわつく。僕は地面を見ながら歩いていると、麓に着いた。少し疲れたな、座りたいと思っていると、奥に寂れたベンチが見えた。ひとまず座ってみる。ふぅ、僕は大きく深呼吸をした。テストに行かなかった罪悪感も感じるが、清々しい気持ちの方が勝ったようだった。ベンチに降り注ぐ微かな陽の光は冷え切った身体をほんの少しだが暖めてくれた。ふふ、僕は笑った。それは純粋な感情からだった。うぅ、眩しい...。僕は30分ほど寝てしまっていたようだ。その間に空はすっかり澄み切っていた。ふぅ、僕は再び深呼吸をした。帰ると決めた僕の身体は行きよりも軽快だった。そして僕は山に別れを告げた。
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