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学校帰りに、ちょっと一人でお花見と、あの公園に寄り道をした時、私は『その人』を見かけたのだ。
低い位置に枝がある木の下に男の人が立っていた。
間違いない。写真に映っていたあの人だ。
たまたま顔が鼻に隠れているだけ。なのに直感で、私はその人が写真の人だと確信した。
私とその人との間の距離はほんの数十メートル。少し移動すればばっちり顔を見ることができる。
そう思うのに、私の足は進むことを拒むかのようにその場に貼りついて動かなかった。
あの人の顔を見てはいけない。正体を確かめようとしてはいけない。
何故か無性にそう思う。でも、私のそんな意思とは裏腹に、進まない代わりに退くこともできず、その場に釘づけになっている私の視線の先で、強い風が相手の顔を隠している桜の枝を揺らした。
反射で閉じた目を、私は一分近く開けることができなかった。でもきっとそれでよかったのだろう。
目を開けた時、花の向こうに人影はいなかった。そして不思議なことに、家に帰ってから久々に見てみたアルバムの写真にも、一枚たりと、顔の隠れた人が映っている物はなかった。
あの人は何ものだったのだろう。その謎はきっと生涯私の中に残るだろう。でも一つだけはっきりしていることがある。
この謎は一生解けないままでいいものだ。
そう。あの人が何ものなのか。それは知らないままでいいことだ。
花の向こう…完
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