花の向こう

1/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

花の向こう

 掃除の最中、どこかへしまい込んでいたアルバムが出てきた。  映っているのは私がまだ幼稚園生くらいの頃の写真ばかり。  その中に何枚か、花見の様子を写した写真があった。  家からそう遠くない公園の、大きな桜の木の下にいるウチの家族と、一緒に花見をしていたらしい親戚家族が二組映っている。  その中に一人、どの写真を見ても桜で顔が見えない人がいた。  ここに映っている人は誰だろう。うちの家族ではないし、親戚の人だろうか。でも見る限り、私の知っている親戚の人は全員顔が映っている。  一人だけ顔の映っていない、正体さえも判らない人。気になって母に尋ねてみたが、母もその人が誰か判らないと言う。  もう十年以上前の写真だから、たまたま一緒に第三者がいたとしたら、今更それが誰なのかは判らないだろう。でも疑問に思うのはその人の正体より、どうして全部の写真でその人の顔が隠れているのかの方だ。  写真は何十枚も撮られているのに、その人の顔が映っている物は一枚もない。偶然にしてもそんな映り方は不自然すぎる。  何か理由があって顔が映らないようにしていた? でもそれなら、そもそも写真自体に映らないように振舞うものだろう。  どんなに考えても、その人の正体も奇妙な映り方をしている理由も判らず、アルバムを閉じた後、私の疑問は薄れて意識のどこかに紛れてしまった。  その時の疑問が再び意識に上ったのは、アルバムを見つけて半年くらいが経った、桜の花が満開になろうとしている頃だった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!