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「まぁちゃん、ミルクティー飲む? 今なら入れてあげるよ。」
「飲むー。」
さっきまで怒ってたのはどこへやら。
急に素直なお返事。
目はテレビに釘付けだけど。
1度別れたはずの男女が再開するも、女の方の気持ちが揺らいでいるシーンがドラマでは放映される。
私には何が面白いのかわからない。
ヤカンででお湯を沸かして、紅茶のティーバッグを用意する。
マグカップを2つ、食器棚から出す。
ピンクが私、青がまぁちゃん。
いつだってこの色分けだった。
砂糖は小さじ2杯。牛乳はレンジで軽くあっためて、3分の1まで。
母さんから教わった、おいしいミルクティーの作り方。
やっと沸騰したお湯を入れて、ティーバッグを入れて、紅茶を出して。
あっためたミルクも入れて、よくかき混ぜて。
甘い紅茶の匂いが、鼻をくすぐる。
「はい、こぼさないでね。」
「ありがとー。りぃちゃんやっさしー。」
物語は、終盤に入っていた。
あと15分もあれば、ドラマは無事に完結するだろう。
ミルクティーは熱くて飲めない。
私はサイドテーブルにマグカップを置いて、冷めるのを待つ。
もう一度スマホを開き、明日の新幹線の最終確認をする。
午前11時15分発。
10時半には、家を出なきゃ。
「ねぇ。りぃちゃん。」
妹が、話しかけてきた。
視線はテレビに向いたまま。
「ん? 」
「本当に、明日、行くんだね。」
視線が私に向くことは無い。
「うん。行くよ。」
「そっか。」
妹は、ずず、と音を立てて、ミルクティーを飲む。
「まぁちゃん、私がいなくてさみしいでしょ。」
「それはりぃちゃんでしょ? 泣いても知らないから。」
「私は泣かないよ。泣くのはまぁちゃんでしょ。」
「りぃちゃんだよ! りぃちゃん昔っから泣いてばっかりだし、泣き虫。」
「うるさいな! 」
そんなことを言い合って、笑い合う。
いつものやりとり。他愛ないやりとり。
「でもほんとに、りぃちゃんいっつも泣いてたし。喧嘩しても絶対真穂が勝つし。」
「わざと負けてやってたの。」
「うわ、負け惜しみだー。」
まぁちゃんは、ニヤニヤした顔で、ミルクティー片手に私の隣に座る。
私はミルクティーがこぼれそうになるのをヒヤヒヤしながら見守る。
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