第二章 縁

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オフィスのミーティングルームから漏れ聞こえるくらい、島田課長はヒートアップして先輩の滝さんを叱責していた。 半分がガラス張りになっていて、中の様子は見たくなくても視界に入る。 一番若くて、先日滝さんと私の話をしていた倉吉君は、私の席の前で、振り向かないと見えない位置なのに、わざわざしっかり振り向いてミーティングルームをガン見していた。 「倉吉君」 私が呼ぶと彼はこちらを見た。 「よそ見してないで、この資料、目を通しておいて」 私は彼に資料を渡す。 「島田課長、怖いっすね」 彼はパソコン越しに私に言う。 まだ話題に出すかと思いながら、私は反応を返さなかった。 「滝、ここのところ成績も伸びてねぇしな。既存客からの信用落とすようなことしたらダメだよな」 隣の席の先輩がそう話した。 どいつもこいつも、人のことばかり気になるようだ。 「葉山」 そう呼ばれて顔を上げると、ミーティングルームの扉から島田課長が顔を出していた。 みんな慌ててデスク上の仕事に目を落とす。 「はい」 私は立ち上がる。 「悪い。こっち来れるか?」 「あっ、はい」 私は急いでミーティングルームへと駆け寄った。 入ったミーティングルームは、何とも言えない重い空気。 滝さんは後ろ姿だけ見ても悲惨さが漂っていた。 島田課長はミーティングルームの窓際の席に座り、私は滝さんの少し後ろの横に立った。 「今回は葉山が一緒にお詫びに行って、誠心誠意話をして納得して貰ったんだ」 島田課長はまた厳しい口調でそう話した。 気まずすぎる。 私を巻き込まないで頂きたい。
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