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「響、ごめん。癖で…」
私はイヤだと首を横に振って意思表示した。
「せやけどな、俺らが夫婦やったことは変えられへん事実やねん」
そんなことわかっている。
慶太はしゃがんで私に寄り添う。
「そこだけはどうにもならん事実やから、受け入れて貰わなあかん…」
私、受け入れてない?
これは私のワガママ?
「弘美には…田所には、5年前気付いてやれんかったこと謝った。嘘なんか必要なかったのにってことも伝えた。でも、今は、響が居るからー」
その言葉に、頭を鈍器で殴られたような感覚になる。
「…私が居なかったら?」
「えっ?」
「私が居なかったらやり直した?」
慶太を見上げる。
「いや、ちゃうやん!」
「違わないよ。私が居なかったら、弘美ちゃんとやり直した?」
「響!やめろや!俺はちゃんと弘美に響のことが大事やって話したんや!」
「それはどうして?」
慶太の気持ちは、意識した時からずっと真っ直ぐで、いつも私を見てくれていた。
「どうしてって何やねん」
蛍の時とは違う、真っ直ぐ私しか見ないその目に、私は安心して身を任せた。
だけど、弘美ちゃんが現れてから、微妙に変化を感じていた。
「慶太……」
私に向ける眼差しと弘美ちゃんに向ける眼差しは違う。
「慶太の心が、まだ、弘美ちゃんを愛してるんじゃない?」
私の問い掛けに、慶太の眉間にシワが寄る。
視界が涙で揺れる。
「だから、弘美ちゃんを拒めなかったんじゃない?」
「そんなこと…」
「私の知ってる慶太は、真夜中に女の子を部屋に入れたりしないし、女の子の入院先に一人でお見舞いなんか行ったりしない。彼女が居るのに泊めたりしないよ」
「だから、それは!」
「元夫婦だからなんて理由にならないよ。慶太は、まだ、弘美ちゃんを愛してるんだよ…」
自分の中にあった疑った不安を、言葉にして彼にぶつける。
無意識だからこそ、私もずっとモヤモヤしていた。
「じゃぁ!響を好きな俺の気持ちはなんやねん!!」
それもまた、偽りじゃないのはわかる。
「…慶太は弘美ちゃんを愛していて…私に恋をしてくれてたんじゃない…?」
私の問い掛けに、慶太は横に首を振る。
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