第四十四章 誤解

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慶太と別れて、彼のプライベートは見えなくなった。 例えば、二日酔いだとチームに話している声が聞こえて、彼が誰と昨夜飲んだのかわからない。 また、体調の悪そうな時も、どうしたのか知れない。 少し前に、口許を切っていたことがあった。 誰かとトラブルでもあったのか…。 それも、聞かないからわからない。 慶太と過ごしていたプライベートの時間がなくなって、彼との距離が元の同僚の位置に戻った。 二人の距離を縮めるのにはあんなに時間がかかったのに、元の位置に戻るのは一瞬だ。 それがまた、傷を抉ることもあった。 社内恋愛の難しさを痛感する。 夕方、雑務をしていると、私のスマホが着信を知らせバイブする。 知らない番号だけど、市外局番は神戸。 仕事の電話かもしれないと、取ってみた。 『あっ、お世話になります!クリーニングハウス元町店の者です』 まさかのクリーニング屋さん。 『お預かりしているマフラーがですね、お引き取り日から暫く経っているものですから、ご連絡差し上げました』 爽やかに女性がそう告げた。 すっかり忘れていた。 「すみません!うっかりしていて…すっかり忘れていました。申し訳ないです…」 『いえいえ!大丈夫です。夜は20時まで営業しておりますので、ご都合が良いときにご来店ください』 「わかりました、今日引き取りに伺います」 お詫びして電話を切った。
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