第四十四章 誤解

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ー月曜日、蛍のマフラーを紙袋に入れて持ち、出社した。 仕事中、別フロアーに行くタイミングのエレベーターで、慶太と鉢合わせする。 気まずい。 空のエレベーターに二人で乗る。 「何階?」 「あっ…10階」 彼は、10階と12階を押した。 お礼を言うと、少しだけ振り向いてくれた。 彼の後ろ姿を見ながら、いつかエレベーターに閉じ込められた日のことを思い出した。 あの時、彼の優しさに触れて気持ちが動いていることに気付いた。 慶太の優しさに溺れそうだと言った私に、彼は溺れればいいと言った。 そして全部引っ括めて、私を好きだと… 私は、そんな彼に甘えて、彼の全部を引っ括めてあげれなかった…? 「…葉山?」 呼ばれてハッとする。 「10階やで」 エレベーターの扉は開いていた。 「あっ、ごめん。ありがとう」 彼の横を通って出ようとすると、手を掴まれて止められた。 驚いて彼を見る。 「…何?」 問い掛けると、慶太は少し沈黙。 「今日……夜、空いてる?」 「…先約がー」 「そうか…」 「何かあるの?」 私の問い掛けに、彼はジッと私を見てから、首を横に振った。 エレベーターを降りて、背を向けたまま歩く。 振り返ると、エレベーターは閉まっていて、慶太の姿はもうなかった。 胸が痛かった。
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