第四十四章 誤解

6/11
前へ
/618ページ
次へ
19時半に仕事を終え、退勤しようとしたタイミングでトラブルの知らせを受けた。 帰れなくなった。 私は合間に蛍に電話して、それを伝えた。 彼は移動中の電車の中なのかもしれない。 蛍は電話に出ず、留守電に切り替わる。 「蛍、ごめんなさい。仕事でトラブルが発生して帰れなくなりました。貴重な時間を無駄にしてごめんなさい。また連絡します」 留守電にメッセージを残した。 「葉山」 慶太に呼ばれて仕事に戻る。 開発の全チームで対処しないといけないトラブルで、各チームのチーフクラスから、残っていたチームのメンバーと一緒に手分けして対応した。 結局、騒動が収まったのは、23時前だった。 大事にならずに収まった安堵を、みんな一緒に共感した。 「月曜からこのトラブルはキツイな」 「少しだけ飲みに行くか?」 そんな声が聞こえてきた。 全員で十数名。 みんな参加しそうな雰囲気だったから、私も少しだけ参加することにした。 道中でふと、スマホを見ると、蛍から2回の着信と留守電が入っていた。 不思議に思って、確認する。 『響?仕事かな?ーとりあえず、待ち合わせ場所で待ってるから。連絡ください』 蛍の残したメッセージを聞いて、もしかして、私の留守電聞いていない?と不安になる。 2回の着信。 20時16分と20時38分。 留守電のメッセージは20時38分の物だった。 どうして?と思って発信履歴を確認する。 「…葉山」 呼ばれて振り返ると、慶太だった。 慶太はスマホを持ったまま、コソッと私に声を掛けてきた。 「俺の留守電に、メッセージ残ってんねんけど…」 その言葉にハッとする。 私のスマホの発信履歴にも慶太の名前が1番最新履歴だった。 間違えた… 「間違えたんやろ?」 慶太に聞かれて頷く。 ちょうど、みんなで三宮に到着したタイミング。 「蛍って…アイツか?」 そう問いかけられて、慶太を見上げる。 「結局、連絡取り合って、会ってたんやな」 慶太の言葉は投げやりのように感じた。 「違う…」 「俺と弘美のことは責めんのに、自分はどうやねん」 そう言われて、何をどう説明したらいいのか迷う。 慶太と付き合っている時からだと、彼が誤解しているのはわかったけれど、その誤解を解くことよりも、今は蛍のことが気になった。 「ごめんなさい、抜けるからみんなに伝えてて」 私は慶太にそうお願いして、みんなの輪から抜けて、蛍との待ち合わせ場所へダッシュで向かいながら、蛍に電話をした。
/618ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11755人が本棚に入れています
本棚に追加