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蛍は驚いた顔をした。
そしてすぐに、くしゃっと笑顔を見せた。
『バレたか。スマートに対応しようとしたのに、慣れないことしても、格好つかないな』
スマホ越しにハッキリ聞こえる蛍の声。
そして彼は、イタズラな笑顔を向けてくれた。
お互いにスマホをゆっくりと下ろす。
私も蛍も、それぞれ歩み寄る。
「本当にごめんなさい!」
時間は23時半前。
彼は3時間半以上もここで待っていたことになる。
お詫びのしようがない。
「いいよ。勝手に待ってただけだから」
蛍の言葉に私は横に首を振る。
「本当に、気にすんな。仕事だったんだろ?」
「でも、私の連絡が…本当に本当にごめんなさいー」
「響!」
彼に呼ばれて彼を見上げる。
「謝りすぎ。もうごめんはいいから」
そう言われて、他の言葉を探す。
「それ、貰うな?」
控えめに指差されたのは、マフラーの入った紙袋。
「あっ、うん。ありがとう」
両手で差し出して、蛍が受け取る。
受け渡しの時に一瞬触れた蛍の指が、氷みたいに冷たく感じた。
駅構内とはいえ、風も吹き込む場所、3時間半も待てば冷えてしまって当然だ。
「お茶…温かいお茶、ご馳走させて…」
私がそう提案すると、蛍は腕時計を見た。
「響、帰り遅くなるから」
「大丈夫!ご馳走させて!」
必死に言った私に、蛍はまた笑って、少しだけと頷いてくれた。
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