第四十四章 誤解

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結局、終電ギリギリまでお店で他愛ない話で盛り上がって、小走りで駅に向かった。 一滴もお酒なんて飲んでいないのに、躓いて転けかけて、彼に支えられて助かった。 一瞬触れた手が、さっきとは違って温まっていた。 それにホッとする。 「急がなきゃ、大阪行きの最終乗り遅れちゃう!」 慌ただしく駅に滑り込んだのは最終電車が出発する3分前。 「ご馳走さま!」 「ううん!取りに来て貰った挙げ句に待たせて、100円のコーヒーでごめん」 「いいや、楽しかった」 彼はそう言ってくれた。 「遅くまでごめん、帰れる?」 「うん!大丈夫!直ぐだから」 「うん。心配だから、帰ったらー」 そう言い掛けて、彼は途中でやめた。 「何?」 気になって問い掛ける。 「いや、心配だから、帰ったらショートメールしてって言おうと思ったけど、彼氏嫌がるかなって思って」 蛍は慶太のことを気にしてくれていた。 慶太のことを思い出した。 「でしゃばりすぎた、ごめん。またな」 優しい笑顔を向けてくれる。 その笑顔に大丈夫と首を横に振った。 「…またね」 笑顔を作って彼を見送る。 改札を潜って、別々のホームに向かった。 別れたと言えなかった。 どうして言えなかったのか、わからない。 だけど、言えなかった。
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