11754人が本棚に入れています
本棚に追加
ホームに上がると、ちょうど蛍も上がったタイミングでホーム越しに向い合わせになる。
大阪へ向かう最終電車がホームに入ってくるアナウンス。
蛍の方のホームには、最終に飛び乗ろうと人が何人か階段を駆け上がってきていた。
電車が見えてホームに入ってくる。
蛍に小さく手を振ると、彼は優しく微笑んでくれた。
すぐに電車が入ってきて、蛍が見えなくなる。
小さく息をはいて、下を向いた。
さっき言われた慶太の言葉が、胸にずっしり残っていた。
別れたんだから気にすることない。
だけど、私が弘美ちゃんに抱いた気持ちを、慶太はずっと抱いていたのかもしれない。
蛍と話した他愛ない時間が楽しすぎて、余計に胸を締め付けた。
大阪へ向かう最終電車が去って行く音。
その、音が遠退いた後、
「…響」
呼ばれて、顔を上げる。
蛍は向かいのホームに立ったままだった。
驚いて目を見開く。
「どうした?」
そう聞かれて、ゆっくり首を少しだけ傾げた。
「何かあったろ?大丈夫か?」
ホーム越しに問い掛けられたその言葉に、なぜか込み上げてくるものがあった。
大丈夫だと、何もないと、首を横に振るのに、視界がぼやける。
口から息が漏れて、下を向くと、涙が溢れた。
最初のコメントを投稿しよう!