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「慶太は、心に蛍が残って居ても構わないと…」
私はそれに甘えてしまった。
「慶太の気持ちなんて考えてなくて、彼の優しさばかりに甘えて…絆を築けなかった」
慶太が、執拗に蛍を意識していたのは、慶太のサインだったのかもしれない。
「私って…いつも自分で自分を追い込んで、周りが見えなくなって、結局ダメにしてしまう」
情けない自分に苦笑いして誤魔化した。
でも、蛍は笑わずに聞いていた。
「…その、元奥さんと彼氏はくっついたの?」
「それは…多分…まだ」
かな?
「じゃぁ、まだダメじゃない」
蛍はそう言い切った。
「理由があって別れた二人が、なぜもう一度心を揺さぶるようなことになるのか…。それはどちらかが、仕舞っていた気持ちに触れたからだ」
それは…弘美ちゃんが慶太の気持ちに触れたから?
「触れた方は、一縷の望みをかけて覚悟を持って触れたはずだ。それに、彼は揺さぶられた。だったら…響も彼の気持ちにもう一度触れたらいい」
「慶太の気持ち…」
「絆なんて、築こうと意識して出来るものでもない。気付いたらあるものだよ。響なら、彼との絆を築けてるはずだ」
蛍は優しい眼差しでそう言ってくれた。
「諦めたら終わりだ。彼が好きなら頑張れ。手離して後悔するな」
蛍の言葉が、胸を打つ。
何だか心が震える。
泣きそうになる。
「…説得力ないよ。蛍は佳世子と結ばれなかったじゃない」
誤魔化して、酷いことを口走ってしまった。
それでも蛍は笑ってくれた。
「確かに」
蛍は笑いながら溜め息を漏らした。
「でも、俺はー相手の心に触れようとしなかった」
蛍の横顔が寂しそうに見えた。
「酷いこと言ったね…ごめん」
「いや、事実だから」
二人で顔を見合わせて、眉を下げて笑った。
「頑張れ、響…」
蛍が応援してくれた。
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