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その日定時で上がって、帰りにエレベーターを待っていると、珍しく慶太も帰るタイミングだった。
「上がり?」
「うん。葉山もか?」
そう問い掛けられて頷いた。
「珍しいやん。誰かと約束か?」
「ううん。そんなんじゃないよ」
間もなくエレベーターが到着。
エレベーターには溢れんばかりの人が乗っていた。
帰宅ラッシュみたいだ。
私と慶太はそのエレベーターを見送る。
慶太は腕時計を見て、時間を気にしていた。
「予定があるの?」
「うん、まぁ…ちょっと」
「そっか」
「昨日遅かったんか?」
「えっ?」
「珍しく眠そうに仕事しとったから」
「あっ、バレてた?」
私は苦笑い。
ふと見た慶太の表情が寂しそうに見えた。
「慶太?」
慶太は、蛍とのことを誤解したままのはずだ。
「あの…話があるの」
「話?」
「うん、空いてる時でいいから…出来るだけ早く…」
私の言葉に、慶太は少しだけ考えるような仕草をした。
「わかった」
彼の返事のタイミングで、エレベーターが到着する。
またぎゅうぎゅう詰めだけど、一人くらいなら入れそうだ。
「先にどうぞ」
「そやけど…」
「約束があるんでしょ?私は予定ないから」
私の言葉に慶太はお礼を言って乗り込んだ。
「また、連絡する」
扉が閉まる前に彼はそう言って、私は頷いた。
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