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第四十六章 粉雪
12月中旬のある日の昼、水木夫妻に女の子が誕生した。
私はその日の夜に直接、佳世子から連絡を受けた。
「死ぬかと思うくらい痛かった」
佳世子は出産の痛さをそう表現した。
「お疲れ様!今はゆっくり身体を休めてね」
疲れているだろうから、早目に切り上げて電話を切るつもりだったのに、佳世子はそれを止めた。
「みんな休め休めって言うんだけど、出産で興奮してるのか全然眠れないの!話し相手になって!」
出産は命懸けと聞いていたから、一秒でも身体を休めて寝たいのかと思っていたけど、佳世子の場合は違うらしい。
「母子同室じゃないし、暇で暇で仕方がない」
そんな彼女の電話に付き合うことにした。
破水からはじまった出産劇から、まだ名前が決まらないのは水木先輩と佳世子のお父さんが名付けバトルをしているからだとか、産んだすぐのお腹はまだ出ていて、この先戻るか不安で仕方がない話を聞いた。
小一時間話し続けた佳世子が、ふと、私の現状を聞いてきた。
「私の話は今度でいいよ」
「よくない!国分さんとどうなったの!?」
その問い掛けに不思議に思う。
「どうって…何もないよ。慶太とは別れたけど…」
私の言葉に、佳世子が雄叫びのような何とも言えない歓声を上げた。
「なんで別れたの!?」
声が弾んでる気がする。
「えっ?」
「藤澤さんと別れたのは何のため!?」
これも産後ハイの一種なのだろうか…
気は進まなかったものの、私は佳世子にこれまでの経緯を話した。
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