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 結局、他に部屋を借りる宛もなく、壁を直してもらった。  例の花は研究で持っていかれそうになったが、クレームを匂わせたら置いていった。  ハーバリウムを真似て瓶に詰めて取ってある。  リリィの名前で今のバルムを利用しているが、キャラの雰囲気が違うのは否めない。  もう少し人間臭かったような気がする。でもきっと慣れるだろう。寂しいのは嫌だからな。  ただ気になったことがあるし、壁を直しているあいだが落ち着かなくて、以前、この部屋に住んでた女をなんとか探りだしていた。  スラム街にお似合いの裏情報はすぐに見つかる。探偵になれそうだ。    急に訪ねたので不振がっていたが、以前、住んでたバルムのことだと言うと女は答えてくれた。 「あの部屋なんかあったの?」 「ちょっとね。今、修理中さ。それで住んでたとき変なこと起こらなかったかなと思ってさ」 「ああ。バルムってよく不具合がキャラに起こるって聞くけど、私はもっぱら景色だけで、海とか山とか、野原とか行くだけにしてたからなあ」 “野原” 「野原にこの花、咲いてなかった?」 ハーバリウムの花を見せた。 「うーん、覚えてないなあ。でも綺麗ね、その花」 「そうか…」 「あ、一回だけお花見したときに、ちょっと寂しくなって女性キャラ来てもらったよ。だけどダメだった」 「何で?」 「だって、桜、見ながら泣いてるんだもの。綺麗ねって言って。私、楽しく酒盛りしたかっただけなのにさ。相性悪かったみたい。景色だけにしたのはそれもあるかもね」 「なるほど…いや、ありがとう。わかりました」  リリィは酒盛りするタイプじゃないとは思う。その人にあったキャラクターを選ぶには、もっと高価なバルムじゃないと選べないし。  それにしても、泣くなんて、リリィ。  いったいキャラクターってどうやって出来てるんだ?。  あのバージョンでキャラを利用してから3年位で不具合になるのは確認できたが。  なぜ3年なんだ?  疑問ばかり残ったが、もう、元のリリィに会えないのは確かだ。    せめて君が好きだった花をずっと飾っておくことにするよ。
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