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Ⅰ
今日も街の喧騒から逃れて我が家へ帰る。
と、いっても我が家もごちゃごちゃしたスチームパンクなスラム街の一角にある。
郊外の草木が茂る優雅な一軒家に暮らすなど夢の夢だ。
昨今、ドールだのクローンだの金持ちが騒いでいるが、それも手など出やしない。
せめて流行りのバーチャルルーム、通称“バルム”で彼女がいる気分を味わうのが精一杯。
俺の部屋はバルム付きのアパート。
気分次第で、いろんな状況を楽しめる。
今日は疲れたからゆっくり彼女と時間を過ごすだけにしょう。
奥の小さい部屋の扉を開ける。
薄暗い真ん中にリラックスできる椅子と小さなテーブル以外なにもない。
バルムのスイッチをいれると、匂いや感触や、風に吹かれる感じまであるから不思議だ。仕組みは企業秘密だそうだ。
軽いサングラスのようなゴーグルを着けて椅子に座る。
今晩の設定はのんびりふたりで連続ドラマを最終回まで完遂。
飲み物だけは用意して準備万端。
「セイヤ、おかえりなさい」
いつのまにかソファーになり隣にふわりとリリィが寄り添って座り、目の前の大きなスクリーンが俺の好きなドラマを写し出す。
「疲れた」
俺は笑って彼女の左腕の温もりを感じながら、ドラマを楽しんだ。
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