或る夏の壱日。

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 昔話をしているうちに、また時が過ぎた。男にとって、待つということは最早それほど問題ではなく、それよりはこの退屈な時間な時間を何とかしようとすることに躍起になっていたのである。いや、そもそもあれこれと考えることが多いこの男を、退屈であると説明してよいものか悩ましいものでもあった。ともすれば、男は次の話題を探し始めるのであるが、もはや彼の思考力は限界に達しており、下世話な事しか想像することができなくなっており、男の頭には、先ほど灰皿を変えてもらった女性店員のことを思い出し、再度卑猥な気持ちになるという一連のコースが構築された。美しい白い肌に、さらりと流れるような長髪。白いブラウスがよく似合い、ミニスカートから伸びた細い足は男の好奇心をくすぐる。恐らく二十代前半とみた。恋人はいるのであろうか。もし仮にそうだとしたら、人の彼女で勝手な想像をした罪で金髪の彼氏に三発程殴られるのだろう。ごめんなさい、本当にごめんなさい。それにしても美しい容姿をしていた。モデルか何かしているのだろうか。恐らく、ファッション誌のモデル募集に応募して、それで恵比寿のカフェかなんかで面接をして、そのまま渋谷のスタジオで撮影して、でカメラマンがいきなり「脱いでください」なんて言うもんだから、仕方なく女は、頬を赤らめながらブラウスのボタンを外し…。で、脱いでみたら脱いでみたで、背中には蛇の刺青が、というのはあの男の話であった。連れ戻された。蛇が笑っていたのだ。「どうだ、怖いだろう。俺にかまれたらひとたまりもないさ。」どうやら彼が語るには、毒蛇であることには違いなかった。
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