或る夏の壱日。

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しかし、男の頭には一つの疑問が存在していた。刺青を入れるようなイカツイ男が、何故自殺に至ろうとしたのか。これは完全に個人的な偏見であるのだが。しかしそれを男に問いだすだけの度胸が彼にはなかったので、黙ってその蛇の刺青を眺めているだけであったのだ。「ああこれ、ただのファッションだよ。どうしても僕はひ弱だとみられる事が多くてね・・・ははは」どうやら、彼は男がまじまじと見つめているものが何なのかを察し、聞いてもいないのに突如語りだしたようだ。私は言った。「いつまで服を脱いでいるんだ。日も照っているし、日焼けしてしまうぞ。」そそくさとブラウスのボタンを絞めなおしてしまったので、無念、彼はその白い乳房を見逃す結果となってしまったのだ。「ほらほら、はずかしがっちゃだめだよー」カメラマンはかなり乗り気であるのだが、女の頭には恥じらいと、さらに「騙された」という感情を必要以上に認識するような構造が出来上がり、もういいですと言ってその上着を持って扉を開けて、行ってしまった。やがて彼女は、同棲している彼氏の下に帰り、このエピソードを語り、「怖かった」などとつぶやき、「大丈夫、慰めてあげるよ」などと訳の分からない台詞を男はつぶやき、そのブラウスのボタンに手をかけ、一つずつ外していくのだが、やがてその背中が露わになると、牙をむいた蛇がまた喋りだす。「どうして…あなたは自殺をしようと思ったのですか?」改めて聞くまでもない。生きることに疲れたからだ。受験もうまくいかず、就職もできず、彼女もできない、友達すらいない、必死に僕はくらいついて、自分磨きをしたが、いくらゴミを磨いたって、ゴミのままだ。そんな日々に、もう疲れたのだ。「そうなんですね。でも、僕も友達もいなくて、うまくいかなくて、死のうと思ったんです…でもほら、最近彼女ができたんですよ、こんな僕でも!」男の横には、美しい彼女。美しく白い肌に、さらりと流れるような長髪。白いブラウスがよく似合い、ミニスカートから伸びた細い足は男の好奇心をくすぐる。「もともとモデルを目指していたんだ、でも面接のときに騙されて…今はカフェでバイトしていて、すごく頑張っているみたいなんだ!」もう、恥ずかしいじゃないの…「いいじゃないか」男はそのブラウスのボタンに手をかけ、一つずつ外していく。「あっ…」男の汚れた手が、彼女の白い肌を汚していく。もうたくさんだ!
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