妄想人間観察

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妄想人間観察

 十二月も下旬、都内で初雪を観測したばかりの翌日。  湿ったままのアスファルト、つんと肌寒い曇り空でも、ここ渋谷は人でごった返している。  待ち合わせ場所としては有名になりすぎて、逆に待ち人を探すことになる――ハチ公前。そこから少し離れた緑色の電車に背を預け、僕は白い息を吐き出す。  手に持ったスマホの画面も真っ白。一行目一文字目に、縦線のキャレットが点滅を繰り返している。  僕は今日も人を探していた。  それは約束した誰かではなく、知り合いですらない赤の他人。  自分の人生が下らないと感じた時期、卑下しない為に見出した術は『人生を好き勝手に妄想すること』だった。  僕自身では現実感がなく、すぐに冷めてしまう。だからせめて他人は凄いのだと、そう思うことで僕の人生も彩られるのだと感じられた。  例えば、鉄製のベンチに座っている彼女。渋谷では珍しくもない外国人。どこかで見た気さえしてくる。     
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