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肩先まであるダークブロンドの髪を左右に分け、シミ一つ無い額を顕(あらわ)にしている。僕より年上だろうか、外人の見た目年齢は分かり難い。整った眉、切れ長の一重まぶた、髪の色と同じ瞳は辺りを見渡す。黒い厚手のダウンコートと厚底ブーツが、これでもかと似合う女性だ。
僕はチラチラと彼女を見ながら、スマホのメモ帳に綴り始めた。
彼女――ジェニファーはFBIの捜査官である。
国境を跨いだテロリスト集団に狙われた渋谷駅。その爆破テロを未然に防ぐ為、ジェニファーは秘密裏に派遣された。若くして選ばれたのは、場に溶け込めるという理由もあったのだろう。優秀な彼女は人が最も集まりやすい――つまり標的には打って付けなハチ公前に送られた。
なので待ち人は居ない。腕時計やスマホをチェックしていないのが、何よりの証拠だ。大方、隠れた耳にはスピーカーが付いていて、本部からの指示を聞いているのだろう。つまらなさそうに視線を泳がせているのは、はたして演技なのか。
そこで僕は空を見上げた。彼女と目が合ったからだ。
こんな気持ち悪い趣味、クラスメイトや親に知られるわけにはいかない。もちろん妄想の対象である当人にだって同じことだ。隠れてするから楽しいのであって、堂々と凝視して怪しまれたら元も子もない。
皆、一度は経験しているはずだ。電車や学校内、そして道行く人に妄想することが。その行為自体が悪いだなんて、誰に責められようか。気付かれなければ問題にならないんだ。
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