採血

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彼女の腕に針がささろうとした瞬間、暴れ出し看護師の手を振りほどいた。 「血は見たくないの!」 病院内に轟くかと思われた絶叫が彼女の過去の記憶を思い出させるのだった。 立ちすくむ彼女の前に猛吹雪がうねりをあげていた。視界に見えるのは白いブリザードだけだった。 家族で温泉地に向かう途中、滑ったタイヤが彼女たちを吹雪の舞う中に放り出していた。 声がして振り向くと父と母が倒れていた。 駆け寄るとむせるような匂いがしていた。倒れた車から何かが漏れているようだった。 父と母を必死に引きずり出すとそれは意外にも軽く彼女は安堵したが、そのあと顔が凍りついた。 「大丈夫だからね」と母が言った。 「大丈夫だ」と父が言った。 彼女は涙しながら、2人に抱きついた。 彼女の体は温かい血で真っ赤に染まっていた。 そのぬくもりを感じていた。
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