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リデルは震える手でハンドガンの銃口を変形した防災扉に向けた。何度も大きな衝撃を受けとめてきた防災扉の耐久も限界だったのだろう。扉を支えていた接続部分が外れて轟音を響かせながら扉部分は落ちた。ポッカリと開いた真っ黒な大きな穴。その向こうにソレは居た。
奇怪な肉塊を巻き付けたような化け物。サイと恐竜を混ぜて気持ち悪さを強調しただけのデッサンの狂いまくった生き物のような何かが顔をのぞかせている。防災扉に体当たりしていたような威勢の良さは感じられずどこかビクついた印象を受けた。
ひょこひょこと頭らしきものを上下に動かして此方の様子を伺っているようだった。
≪ハァーイ≫
何処からともなく愛くるしい少女の声がリデルの耳に入ってきた。リデルが顔をしかめて注意深く辺りの音を拾おうとすると、化け物の方から≪ハァーイ≫と聞こえてきた。
どうやら、このグロテスクな生き物が自分に挨拶してくれているのだろうかとリデルは考えた。とても綺麗な発音で言葉を発している。もしかして容姿はとてつもなく奇怪で醜いが、この世界の知的生命体なのではないかと、混乱する頭で答えを導きだした。
「…あなた1人?何してるの?」
リデルは精いっぱいの愛想笑いを浮かべて化け物に話しかけた。化け物はリデルの問いに応えようとしてるのか、リデルの顔を凝視しながらゆっくりと崩れた防災扉を乗り越えてリデルに近づいてくる。リデルは、その不快な姿に悍ましさを感じながらじっと耐え、ハンドガンを構えた。
そして化け物が再度≪ハァーイ≫と声を発した。その刹那、リデルは身の毛がよだち胃の中から熱いものがこみあげてくるのを感じた。化け物の顔の横に崩れた人間の顔が貼りついている。醜悪に歪み溶けたその口のような場所から声を発していたのだ。
愛くるしい声とは裏腹に醜悪なその姿を直視したリデルは恐怖心を抱いた。嫌悪感と恐怖心に支配されたリデルは銃を撃つことも忘れてカタカタと震えた。
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