2章 【不審者】

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「ちょ!?なんでこっちにくんのよ!?寄るな!この化け物!」  リデルはハンドガンのマガジンが空になるまでゾンビに向かって乱射する。腹が立っていた。この世界はリデルに優しくない。直情的で愚かかもしれないが、全ての鬱憤をゾンビに叩きつけるように動かなくなるまでハンドガンの引き金を引いた。  狭い路地で響く連続する発砲音。充満する硝煙、乱暴に照準を合した弊害で何発かは金属にあたり跳弾する。そのうちの1発が男の眉間に食い込んだ。   リデルはしまったと思った。自らの手で生存者を殺してしまった。慌てて男の元に駆け寄る。 「ありがとう!助かったよ!全く…化け物がうようよ居るだなんて、この国はどうなってしまったんだ!?あ、俺の名前はアレック・リンドバーグ!って君はリデルじゃないか!?いやー勇ましいから別人かと思ったよ!いやいや、何も言わなくてもいい。君に命を救われた。この恩に報いるために何か出来ることはないかな?あぁ、そうだ教会に行こう!」  と、アレック・リンドバーグと名乗る男は爽やかな笑顔で言った。眉間を撃たれたはずだが傷もなく、何事もなかったかのように笑っている。 「あなた本当に人間?」    リデルは不審に思いアレックに問いかけた。リデルは自分の不注意で彼を殺してしまったはずだ。もし仮に思い違いだったとしても、彼は不自然だ。 「さぁ、行こう!」  彼はリデルの問いを無視して、にこやかに手を差し伸べる。リデルは、この男が怖くなった。貼りついたような爽やかな笑顔。人の話を聞かない姿勢。一緒に居たくないと思った。 「いや、お礼とかいいので、さようなら」   「さぁ行こう!」 「行かない!うざいから退いて!」 「さぁ、行こう!」  アレックはリデルの言葉を意に返さず、再び同じ動作をする。まるでプログラミングされたロボットのように。
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