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リデルは言いようのない恐怖に身を震わせた。アレックという男は最初に放った長いセリフの後は壊れたお喋り人形のように同じセリフを繰り返しているだけだ。会話が成り立たない。
「もういい。」
リデルは小さく呟くとアレックの向こうにある格子扉に向かって歩き出した。すれ違う時もアレックは同じ表情としぐさで何もない空間に同じセリフを言っていた。
「…気持ち悪い」
リデルは言いながら、格子扉に手をかける。しかし、その格子扉はおうとつのない1枚の板のようにツルツルとした感触がした。扉の取っ手が見えるのにそこに存在していないようだった。いや正しくは、格子扉の少し手前に見えない壁があるのだ。
空気は流れてるし、格子の隙間から見える風景も映像ではないように思える。しかし【見えない壁】が邪魔をして先に進めないのだ。
「なんで?ちょっと何よこれ?」
リデルは、壁に拳を叩きつけて抗議の声を上げる。しかし壁に拳が当たる音がしない。拳をぶつける感触も表現のしようのない不思議なものだった。
「!?」
その不気味な感触にリデルは思わずその場から飛び退き、踵を返して元来た道に向かって走り出した。この場から一刻も早く離れたかったのだ。アレックにも近よりたくないし、あの意味不明な壁も恐ろしい。
あの場でとどまるよりも何倍もマシだろうし、少なくともショッピングモールから歩いてきたのだから他に道を探すことは可能だと思った。
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