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もうリデルの精神は限界を超えて疲弊していた。やっと自分の他に生きている人間に出会えたと思ったのに、それはぬか喜びだった。期待してしまっただけに絶望はより深い。
しかもアレックという男の容姿は思いを寄せていたクラスメートにそっくりだったような気がする。そんな事実をふと思い出した。今思い出さなくてもいいじゃないかとリデルは思った。
「もう…やだ…やだぁぁぁぁ!」
リデルは涙があふれるのを抑えられなくなっていた。泣きじゃくりながら走った。何もない1本道の路地。前を見なくても進めるはずだった。しかし、リデルは何かにぶつかって転倒する。ぶつかった瞬間に感じたのは、あの不気味な感触だった。
何もない空間に現れた【見えない壁】。リデルは絶望した。閉じ込められたのだ。格子の扉の前と路地の曲がり角の位置に【見えない壁】がある。
「っ痛…」
リデルは地面にぶつけて痛む箇所をさすりながら起き上がる。呆然と立ち尽くしながら【見えない壁】の設置された場所を確認する。
「もう家に帰りたいよう…お母さんに会いたい」
そう力なく呟くリデルにはもう希望を見出すことは難しくなっていた。この世界は異常だ。時計の針は不規則に動き、理不尽な法則がこの世界を支配している。進みたい方向には進むこともままならず、何時間も彷徨わなければならない。
リデルの住んでいた街は陸の孤島ではない。公共の交通機関が機能しており、大きな幹線道路や鉄道が通っている。しかし、この世界の交通機関はマヒしてしまっているのにパニックを起こした形跡もない。
警察や軍隊といったものもきっと機能していないだろう。リデル以外の人間が存在しない世界。それを扱う人間がいてテレビもラジオも初めて機能する。機械だけあっても、街だけあっても意味がないのだ。
リデルはその場に蹲り膝を抱えて静かに泣き出した。
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