3章 【不自然な生存者】

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 ディックはアメリカのウィスコンシン州にあるミルウォーキーで私立探偵の事務所で働いていた。  あれは、そう1週間前だろうか?ある依頼人が事務所のドアをノックした。ディックは愛想よく依頼人を迎え入れ、ボスに来客を伝える。仕事を受ける時は先ずボスが依頼人に会い、大まかな依頼内容の確認と請け負うかどうかの判断する。ボスからGoサインが出たらディックが依頼の細かな情報を聞き出し、調査期間と必要な費用の見積もりを出して依頼人に告げる。  だが、今回の依頼は違った。ボスは依頼人に会おうともせず、ディックに最高の仕事をしろとだけ告げた。こんな事は異例だったが、ボスの期待を裏切るわけにはいかないとディックは思った。  依頼をしに来たのは、清楚なご婦人だった。色濃く塗られた化粧は目の下のクマを隠すのに施されているのだろうか。その姿は憔悴し、今にも倒れてしまいそうな印象を受けた。何件も探偵社を周り全て断られてきたのだという。婦人は唇を噛みしめ俯き、ディックの言葉を待っている。その瞳には絶望の色に彩られ、涙にぬれている。 ーーこんな状態の人を無碍にはできないよなー。とりあえず話だけでも聞いてみるかー。  ディックは憐憫(れんびん)の感情を抱きながら、夫人の前に座る。     
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