1章  【狂った空間】

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リデルはたった独りでこの訳のわからない現状と戦い続けているのだ。  数時間前、リデルは街の中にあるショッピングモールに、高校の卒業記念のダンスパーティーで着るドレスの下見をしに来ていた。休日のショッピングモールは大勢の人で賑わい、すれ違う人々も楽しそうに談笑していた。ドレスを扱っている店舗の店員も愛想よく仕事をしていた。何の変哲(へんてつ)もない日常の風景が続いていくはずだった。  だが違った。一緒に来ていた友人にトイレに行くと言って店を離れ、戻ってきたら世界が一変していたのだ。店員も友人も、つい先ほどすれ違った人々も消えていた。人だけが突然消え失せてしまったようだった。  リデルは慌てて辺りを見回した。何処に視線を向けても人間の姿を確認できない。リデルは信じられなかった。消えるはずがないと思った。だから、自然とスマホに手が伸び操作する。友人を呼び出し、このバカげたドッキリを早く終わらせようと思ったのだ。  電話帳から友人の名前を探し出しタップする。すると聞こえてくるはず呼び出し音の代わりに妙な雑音と奇声のような甲高い音が響いてくる。リデルは驚いて、思わずスマホを床に叩きつけようと腕を振り上げた。  振り上げたところで、我に返りかぶりを振って画面を確認した。ホーム画面に戻っている。先ほどの妙な音は、きっとなにか友人に悪戯アプリでもダウンロードされたのかと無理やり自分を納得させ、もう一度スマホを操作しようと画面に触れた。  触れた瞬間、スマホが激しく明滅(めいめつ)して電源が落ちた。リデルは事態を飲み込めず困惑するしかなかった。  異常な事態が起きている。突然、リデルは独りぼっちにされスマホも使えない。それだけでも泣きそうなのに、いつのまにか店内の音楽が陰鬱(いんうつ)な葬送曲へと切り替わっている。
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