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「伊崎のばあちゃんから電話。バヤリース、味違うヤツ3本くれって」
チン、と黒電話の受話器を置いて親父がそう告げたのは、俺がぼちぼちと店仕舞いを始め、ちょうどエプロンを外しかけた時だった。
「はぁ?今からぁ?店仕舞いだっての。アウトアウト」
俺は冗談じゃねぇと言わんばかりに、手をヒラヒラと振る。
「いや、セーフだセーフ。ギリギリ10分前じゃねぇか」
店内の古めかしい壁掛け時計を顎で指しながら、親父はどこか面白がっている様子だ。
身を縮こませながらの表の片付けを終え、シャッターも半分閉めかけ、俺の頭ん中はもう仕事を終えた後のビールと飯食うことで一杯だった。
うちの閉店時間は一応20時だが、飛び込みで来たお客さんに対応出来るようにはしてるし、何しろ寂れた商店街にある小さな店だから、細かい時間はなあなあだ。
それ以前にこんな閉店間際に客なんか、とタカをくくってたら──よりによって配達だ。
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