理屈男子と感情女子

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理屈男子と感情女子

「あ、安城萌(あんじょうもえ)です。ふちゅちゅかものでしゅがよろしくおねがいしまひゅ!」  中学デビューを飾る記念すべき初舞台。  教室の壇上で行う自己紹介という場で、わたしは盛大に噛んでしまった。  緊張で舌が回りきらないまま思い浮かべていた言葉を一気に吐き出し、頭を下げた瞬間に(しまったあああ!)という壮絶な心の叫びが渦を巻き、頭が真っ白になる。  今日はポカポカと春らしい天気だというのに、時が真冬に巻き戻ったみたいだった。  しばらくしても何の反応もなくて、恐る恐る頭を上げてみる。すると、まだ名前も知らないクラスメイト達は、みんなポカンとしていた。 「ぷっ」  誰が吹き出したのか、それが凍り付いた時間を動かす合図となった。  どっとわき起こる笑い声。その全てがわたしに集中する。顔だけではなく、全身までもが茹だったように熱くなった。  混乱と恥ずかしさにぐるぐると目が回る。とてもではないが、ここから巻き返しの一手など打てるはずもない。  これ以上傷口を広げないように、どうにかもう一度大きく頭を下げてそそくさと壇上から撤退する。あとはもう一番前列にある自分の席へと逃げ帰り、まだ止まない笑い声を背中で受け止めながら身を縮こまらせる他なかった。 (うぁー! やっちゃった! 最悪だよ!!)  穴があったら入りたい。できることなら頭を抱えてその場で転げ回りたい。嵐よ早く過ぎて神様お願い。 「よろしく」 「え?」
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