温もりなんていらない

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 クリスマスイブの夜、定時で仕事が終わったものの、アフター5の予定などある訳のない俺は、キリスト教でもないのに無駄に浮かれたカップルが溢れかえる繁華街をイライラしながら足早に突っ切って早々に帰宅していた。  外気に晒され冷たくなった服を脱ぎ捨て、そそくさと部屋着に着替えてからコンビニで買った缶ビールと弁当とカップアイスをコタツの上に広げる。  独り身の食事は寂しい。こんな日は特にだ。  人肌は恋しいが、相手がいないのだからどうしようもない。  コタツで温まりながらアイスを食べる。そんな小さな贅沢が今できる唯一でささやかな楽しみなのだ。  いつの間にか寝ていたようだった。  突っ伏したコタツの端には空になった缶ビールと弁当が乱雑に置かれていた。  クリスマスイブ特番のドラマが流れるテレビのスイッチを切って、下半身だけ入れていたコタツの中に、今度は全身を潜り込ませた。  一人用のコタツは全身入れるにはやや小さく、どうしても窮屈なので、暖を取るために俺は体を折りたたむのだ。  小さく身体を丸めたその時、膝に何かが当たる感触がしたのだった。  布団をめくり中を覗くと、赤い空間にカップアイスが静かに鎮座していたのだった。  少し溶かしてから食べる為に入れておいたカップアイスは既に汗一つかいていなかった。焦ってそれを救出したが、時すでに遅し。  蓋を開けた中に入っていたのは、人肌まで温められドロドロになった、さっきまではアイスと呼ばれていた「ミルク」だった。  俺は怒りに任せカップミルクを一気に飲み干す。  優しい温もりを放つそれの喉越しは最悪だった。  俺が欲しい温もりはこんなんじゃない……。  空になったカップを天板に叩きつけるように置いて、俺はもう一度コタツに潜り込むのだった。 ~おわり~
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