20歳

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初め父は苦虫を噛み潰したような顔をして答えず流そうとしたが、僕の真剣そうな顔をみて観念したように話してくれた。 「いや、権利は使っていない。だけど、正直に使おうと思ったことは何度かある」 父は言葉を慎重に言葉を選ぶように語ってくれた。 「それは、あの初めの仕事をやめるきっかけになった上司?」 「もちろんあの人に対しても思ったことはあるけど、それよりも後輩に対してだな。色々あったのかもしれないけど、人に押し付けるようなことをするやつじゃないと思ってたし、周りも何も助けてくれなかった時は、自分が今までしてきたことは何だったんだろうって自暴自棄にもなりかけた」 寂し気に語る父に、意外であると僕は感じていた。 まるで聖人君子であるとすら思っていた父でさえそう思っていたのかと。 軽口は叩けないような雰囲気で、僕もその空気を壊すことがないよう話す。 「じゃあ、逆になんで権利使わなかったの?使ってもおかしくない動機だったと思うけど」 考え込むように下を向き、冷蔵庫へ向かってお茶を飲み下してから父は話し始める。 「権利が与えられたときにはもう今の職場にいてしばらくしてたからな。権利交付の当時は今と違って批判的な意見も多かったというのもあるから使わなかった」 口を挟む間もなく父は続けた。     
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