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「今の言葉…忘れるんじゃないわよ?」
慎さんはそれだけ言うと,あたしが居る所までやって来た。
「璃桜,パパの所においで」
「んゅ?パパおちごとは?」
「もちろん,お仕事するわよ〜。でもね?ママの力を借りたいからママの用事が終わるまで,パパと遊んでようね」
璃桜くんは,嬉しそうな声で“うん”っと頷くと,慎さんに腕を伸ばして抱っこをして貰い,あたしの方を見る。
「ママ,がんばっちぇね」
「ありがと。少しだけ待っててね」
あたしは,璃桜くんの頭を撫でた後,乃木様の座って居る所まで行きスタッフと交代して向かいの椅子に座るなり,乃木様のネイルの状態を再確認したのだ。
「……」
「心さん…このネイル…元に戻るかしら…?」
「…必ず,次のネイルの予約を入れられる時まで持つ様に修復してみせます。だから,あたしを信じて下さい。」
あたしは,乃木様を安心させる様に笑顔を向けると,乃木様もつられる様に笑顔を向けてくれる。
「心……」
「…えっ?桜華縞さん?」
「……心も桜華縞だろ?郁翔で構わない。」
「…あ…はい…。それで郁翔さん,あたしに何か…?」
「あ…えーっと…オレのネイルキットを使え。」
郁翔さんは,自分のネイルキットを指で差す。
「いいんですか?お借りしても…」
「構わないさ。早くリペアに取り掛かるといい…。心の力…お手並み拝見といこうか」
あたしは,郁翔さんに頭を『ペコリッ』っと下げると,指で差していたネイルキットへと手を伸ばし,色々と確認した後,乃木様のネイルに再び目を向け,電動ネイルヤスリでネイルが欠けた所の下地を少し粗めに周りの方まで削り,ダストを落とした。
「ねっ…心さん…どうして…そんなに削るのかしら?」
「リペアする…ジェルネイルを乗せる時に乗せやすくする為ですよ。逆にツルツルにすると,後で剥がれやすくなるんです…。」
“そうなのね”っと乃木様は納得する。
あたしは,納得した様子を伺いながら,次の行程の消毒で細かいダストをしっかり落し,スカルプを使い形を整え,カタログを爪のカーブに合わせ,スカルプを欠けた部分とその周りに乗せていくようなかたちで,全体的に被さる様に固定し,爪の厚さを合わせネイルドライヤーに当ててもらい乾かす。
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