君には罪など無く

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この学校の美術室のような特別教室のドアは普通の教室のドアとは少々異なっている。普通の教室のドアは引き戸であるのに対し、特別教室のドアは前後に開閉する扉だ。その上、開くと短い廊下があって、その右手には準備室が設けられ、本教室に入るにはもう一つドアを開けなければならない。音楽室では音、美術室では絵の具などの臭いを漏らさせない為にこのような構造になっているのだろう。 それでも、和泉は一つ目のドアを開ける前から絵の具の臭いを嗅ぎ取っていた。きっと誰かが絵を描いているのだろうと予想して、ドアを開ける。一層、絵の具の臭いが して美術室に人の気配が感じられた。 音がしたのだ。コンコンコンと机か何かを叩くような音だ。和泉はこの音を鳴らす癖のある美術部員ー彼も三年であるので元美術部員を知っている。 もう一つのドアを開いて教室の中をみると、予想通り男子生徒が座っていた。同学年の男子生徒よりは小さな体躯、女性的な顔をした少年ー名を上総理玖という。 その目は目の前のキャンバスにのみ注がれていて、美術室を訪れた人間がいると気付いてはいないようだ。そう判断した和泉は声をかけずにそーっと美術室に入る。ドアが閉まる音もしないように、ゆっくりと静かに閉めた。最後、閉まる瞬間ギギギと音がしてしまったが、理玖の反応は無い。ならば、とそろりそろりと教室の奥、美術部員が制作した作品が無造作に置かれている場所へ向かった。     
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