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和泉の絵だけではなく、他の部員の絵も纏めて置かれていたので、そこから自分の作品を探す。一枚一枚確認すると、同じ美術部で共に過ごした仲間達の作品を見る事になり、懐かしさがこみ上げてくる。
その中から、自分の絵を三枚取り出して小脇に抱えてた。大きな絵は卒業式の際、親が車で来るはずなのでその時に運ぶ心算だ。今日は小さな絵だけを持って帰ろうと、絵を抱えて振り返ると再び絵を描く理玖の姿が目に入った。
何の絵を描いているのだろうか。気になった和泉はそぉっと理玖に近づいて絵を覗き見る。まだ途中のようだが、何も無い空間に人が仰向けに横たわっている絵だ。多分、何処か高いところから落ちている絵だ。
そう、和泉は思った。その瞬間、彼女の胸にひゅうと冷たい風が吹いて、背筋が凍る。同時に顔も凍ったのだが、彼女は気づいていない。
「どうかしたの?高崎さん」
流石に和泉の存在を認識した理玖が問う。凍りついた顔で「なんでもない」と譫言のように呟いた和泉を不審には思ったが、深く尋ねずに引き下がった。そもそも、話す事も殆ど無かった二人だ。心配する間柄では無い。
「上総君…、この絵…」
「うん?暇だったからね」
暇潰しというには、あまりにも美しい絵だった。多分、和泉が本気で描いてもこの絵には敵わないだろう。それだけの実力差があった。
でも、和泉が慄いた理由は違った。
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