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まばたきよりも短くても
置いてかないで、と鳴いた。
人の言葉を発することなんてできないから、くーん、くーんと切なく鳴くのが、精一杯の主張だった。
だが、ご主人様の父は、立ち止まってはくれなかった。
置いていかれた。
――置いていかれた。
……たった一人になった。
「あらら」
それは、何の予兆もなく、現れた。
「あんたも一人なの?」
赤が揺れる。とがった帽子が、闇夜に浮かぶ。
「寂しいくって悲しくってつらいんだ。それじゃあ、あたしが一緒にいてあげる。あたしのながあい、ながあい、暇つぶし。付き合ってよね?」
――それが、始まりだった。
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