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ある日、ベルの後ろ足がなくなった。
お嬢様とお嬢様の世話役とベルで街を歩いていたとき、近くに停車していた馬車の積荷が突然崩れ、それに潰されてしまったのが原因だった。ベルはとっさにお嬢様を庇った。お嬢様の車椅子が倒れてしまって、お嬢様は小さな擦り傷を負ってしまったが、それでも、大きな怪我はなかった。しかし、逼迫した状況の中、ベルは、自分の身を守りきることはできなかった。命は助かったが、後ろ足二本とも、原形がなくなってしまうほどの大怪我を負った。
「ごめん、ごめんね。ごめんね、ベル」
大好きなお嬢様は、身動き取れないベルに向かって、何度も何度も謝った。
いいんだよ、と言いたかった。お嬢様が無事なら、ベルはそれでいいんだよって言って、ほっぺを舐めてあげたかった。
だけどベルは、動けなかった。獣医の先生が、出血多量で危うい状況だって、そう言っていた。
「ごめん、ごめんね。私が動ければよかったよね? そうすれば、ベルはこんな、こんな傷を負わずに済んだよね。ごめんね、ごめんなさい、ベル」
ううん、そんなことないよって返したかった。ベルはお嬢様を助けられて、それだけで、すっごく嬉しいんだよって言いたかった。だから泣かないでって言いたかった。
でも、言えなかった。
ベルは、人の言葉を持たない、犬だから。
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