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ありがとう。本当にありがとう。どれほど感謝しても、きっと足りないけれど、それでも、そう思わずにはいられない。喜びと親しみを込めて彼女の頬を舐めると、魔女はくすくす笑った。
「君が感謝することは、何もないよ。感謝しなくてはいけないのは私の方。……君の一生は、決して長いものではないけれど、それでも、長く、なるべく長く、お嬢様の側にいてあげて。……お嬢様と仲良くね」
もちろんだ。ベルはお嬢様の側に、一瞬でも長く居る。そして、二人一緒にいられるなら、自分たちはいつまでも、どこまでも、きっと仲良くしていける。
「さあ、それじゃあお嬢様のところに行こう。私が送ってあげる」
魔女はベルの額をつつく。本当に、本当に、ベルにはそれだけにしか見えなかった。それなのに、ベルが立つ場所は一変していた。
ここは、お嬢様の屋敷の庭だ。正面には白を基調にした屋敷があり、ベルが立っているのは屋敷の玄関に続く石畳。石畳の両側を、咲き誇る花々が彩っている。介助犬の施設からここまでは、数十分はかかるはずなのに、あっという間にここまで来てしまった。今は夜。たぶん、かなり遅い時刻のはず。屋敷の人間は起きているだろうか。……お嬢様に会いたい。
ベルはひとまず屋敷の扉に近寄る。両開きの玄関の扉の前で、右往左往。吠えてもいいだろうか。でも、迷惑? しばらく迷っていると、急に玄関の戸が開いた。
「ベル!?」
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