まばたきよりも短くても

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 そう驚きの声を上げたのは、屋敷の警備を担っている男だ。見回りの最中だろうか。なんにせよ、玄関扉を開けてくれた。  ベルは素早く男の足元をすり抜けて、玄関の正面の階段を駆け上がる。階段を上りきったところで右に曲がり、その先にある廊下に飛び込む。  お嬢様の部屋は、ベルの仕事場だ。この廊下は何度も、何百回も通ったから、目をつぶっても、鋭い嗅覚に頼らなくても、お嬢様の部屋に辿り着ける自信がある。  廊下をまっすぐ進んで、いくつかの扉を見送って、突き当たりに程近い扉の前で立ち止まる。ここが、お嬢様の部屋だ。  ベルの優れた聴覚は、部屋の中から聞こえる、微かな音を正確に拾った。 「ベル……、ベル……っ、お願い、お願いだから元気になって……!」  ……呼ばれている。行かなくては。  お嬢様は体が不自由だから、何かあったとき、ベルが使用人たちを呼びにいけるよう、部屋の入り口であるドアにベル用のドアが設けられている。そこから部屋の中に飛び込んだ。 「え……っ!?」  お嬢様は、泣いていた。目が痛々しいくらいに腫れている。ここ数日、ずっとずっと泣いていたせいだ。     
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