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「今夜が通夜だってね、御触れが出ちょったよぅ。本家の透くんが伝達に来たんに、あれ、ツグちゃんさっきすれ違わんかったん?」
「いや――……」
透、という名に継海の小さな心臓は跳ねた。こんな猛暑日に、胸の底がキンと冷えるような不思議な不快感を覚える。継海は思い出す。倉志名透の生白い貌を。一重のまぶたのかたちを、淡泊な薄い上唇にポツンと刻印されたホクロを、じっと継海を見つめる熱心な視線を。
「――透さんは、見てない。……それじゃ、俺もう行くから。今夜、来るとき気を付けなね。このあたりは外灯がないからあぶないよ」
あいよぉと気の抜けた返事をしながら軒に打ち水を撒く老婆に手を振って、継海はおそるおそる青臭いあぜ道をきょろりと見渡し、倉志名透の姿がないことを確認すると足早に実家への路を駆けた。くらくらするような暑さと動揺に、汗が噴き出た。
生白いてのひらに手首を押さえ付けられて、腕の内側のやわらかい場所を軽く噛まれた。
『継海、帰省するときは、いちばんはじめに私に知らせなさいと言ったでしょう』
責めるような物言いに冷たい瞳。継海は身を竦ませながらも汗ばむほどに高揚して、そして――……。
「ツグちゃん、ツグちゃん」
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