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  懐かしい呼び声に目を開けると、心配そうに表情を歪める叔母の顔が視界に飛び込んできた。続々と帰省してきた親類が座卓を囲み、がやがやと姦しく談笑している。慌てて飛び起きて腕時計に目をやると、本家に到着してからそう時間は経っていなかった。安堵し、頬に付いた畳の痕を手で押さえる。 「ごめ、眠ってた……」 「ええよええよ。慌てて帰ってきたんでしょう、もうちょっと休んどきよ。そのうち透くんが帰ってくるけぇ。――――あ、噂をすれば」  玄関の戸が開く音に叔母が顔を上げると、ぺたぺたと裸足が床を軋ませる気配が近付いてきた。さり、と襖が開いて、生白い顔が継海を捉える。瞬間で金縛りにあう。 「来ていましたか。――――おかえりなさい」 「あ、……ただ、いま」  動揺して瞳を泳がせる継海をじっと見つめ、倉志名透は小さく息を吐いた。成人したばかりの継海より四歳年上なのだが、振る舞いやしゃべり方から年齢不詳な妖しい雰囲気を感じる。 「ずいぶん日焼けしましたね。一年で、継海は雰囲気が変わったようですが……、都会の大学は、楽しいですか?」  空いていた座布団に腰を下ろし、透は叔母の運んできた冷たい緑茶を口に含んだ。冷たい視線も、責めるような言葉尻も苦手だ。胸が苦しくなる。 「……うん、たのしい」 「そうですか、それは何より。……今夜は当番で通夜をしますから、今のうちに寝ていてもいいですよ」 「いや、大丈夫。さっきすこし仮眠を取らせてもらったから」 「ああ、なるほど。それで痕が……」     
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